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東京高等裁判所 平成12年(ネ)5332号 判決 2000年12月26日

控訴人 株式会社 店舗ファイナンス

右代表者代表取締役 門田敏行

右訴訟代理人支配人 中井良昇

被控訴人 破産者A野花子破産管財人 守谷俊宏

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

二  控訴人は、被控訴人に対し、金六〇万一一五一円及びこれに対する平成一二年一月一五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを五分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

控訴棄却

第二事案の概要

本件の事案の概要は、原判決「事実及び理由」第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  前記の争いのない事実に、《証拠省略》を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  A野企画は、飲食店の経営等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社で、破産者がその実質的経営者として代表取締役を務めるいわゆる同族会社である。

2  A野企画は、平成一一年六月初めころ、業者への支払金が不足したため、控訴人に対して融資を依頼し、控訴人の担当者と協議した結果、A野企画の代表取締役である破産者が連帯保証をし、破産者と日本生命との間の破産者を被保険者とする生命保険契約(本件保険契約)に基づいて破産者が日本生命に対して有する保険金、給付金、解約返戻金及び配当金請求権(解約返戻金等)に根質権を設定した上で、控訴人がA野企画に融資することになったが、同月七日現在、破産者は、本件保険契約に基づく解約返戻金(予定額)として三七六万九二〇〇円、積立配当元利金として三万九四八四円の合計三八〇万八六八四円の支払を受けることができたものの、日本生命の破産者に対する債権として、契約者貸付金精算額六九万九九九九円及び保険料未納立替金清算額二五三万四〇三二円の合計三二三万四〇三一円が存在していたため、日本生命の破産者に対する同日現在の解約返戻金等の差引支払予定額は五七万四六五三円にすぎなかった。

3  そこで、控訴人の担当者と破産者は、控訴人がA野企画に四〇〇万円を融資することとするが、同融資額のうちの二〇〇万円を、A野企画が自ら又は破産者がこれをA野企画から借り受けた上、破産者の日本生命に対する右契約者貸付金及び保険料未納立替金の各債務の一部弁済として支払い、控訴人の根質権の対象となる解約返戻金等差引支払予定額を二五七万四六五三円に増額することを、控訴人のA野企画に対する融資の条件とすることを合意した。

4  控訴人は、平成一一年六月九日、右合意に基づいて、A野企画に四〇〇万円を貸し渡すとともに、破産者との間において、根保証限度額(元本限度額)を四〇〇万円とする連帯根保証契約及び極度額を四〇〇万円とし本件保険契約に基づく解約返戻金等を目的とする根質権設定契約を締結し、破産者は、同日、控訴人の担当者を同道した上、日本生命の営業所に赴き、融資を受けた四〇〇万円のうちの二〇〇万円を破産者の日本生命に対する右契約者貸付金及び保険料未納立替金の各債務の一部弁済として支払った。

二  控訴人は、前記争いのない事実1、4及び5のとおり、本件根質権に基づき解約返戻金等に対して債権差押えを行い、本件保険契約を解約した上、平成一一年八月二六日までに日本生命から二六〇万一一五一円の支払を受けたが、一方、破産者は、同月一一日に破産の申立てをし、同年一〇月一二日に破産宣告を受けたものであるところ、その破産管財人である被控訴人は、控訴人が破産者の根保証債務を担保するため破産者から根質権の設定を受けたのは無償行為に当たるとして、これを否認するものである。

そして、破産者が義務なくして他人のためにした保証若しくは担保の供与は、それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であっても、破産者がその対価(破産者がした給付と対価関係に立つ反対給付)として経済的利益を受けたのでない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当たるものと解すべきであり、このことは、主たる債務者がいわゆる同族会社であり、破産者がその代表者で実質的な経営者であるときにも妥当するものというべきである(最高裁判所昭和五八年(オ)第七三四号、同六二年七月三日第二小法廷判決・民集四一巻五号一〇六八頁)から、破産者がした本件根質権の設定も、破産者が本件根質権設定の対価として経済的利益を受けたのでない限り、破産法七二条五号にいう無償行為に当たるものというべきである。

しかしながら、前記認定のとおり、控訴人は、A野企画に対する融資金四〇〇万円のうちの二〇〇万円を、A野企画が自ら又は破産者がこれをA野企画から借り受けた上、破産者の日本生命に対する債務の一部弁済として支払い、控訴人の日本生命に対する債権を増額させて、これに根質権を設定することをA野企画に対する融資の条件としたものであり、実際にも、破産者は、A野企画が控訴人から借り受けた四〇〇万円のうちの二〇〇万円を日本生命に対する債務の弁済として支払ったのであるから、破産者は、本件根質権を設定し控訴人にA野企画に対する融資を実行させることによって、日本生命に対する債権を二〇〇万円増加させて、結局、本件根質権の設定の対価としてであるとはいえないものの、それを原因として、右と同額の経済的利益を受けたものということができる。そして、破産者の日本生命に対する債権のうち右二〇〇万円に相当する部分については、もともと破産者の本件根質権の設定を条件とする控訴人のA野企画に対する四〇〇万円の融資がなければ、およそ破産者の一般財産に加えられることもなかったことは明らかであるから、この部分の債権について根質権が設定されたからといって、それによってはなんら一般債権者が害されることにはならないものということができる。

そして、破産管財人が破産法七二条五号の規定により無償行為又はこれと同視すべき有償行為として否認することのできる破産者の行為は、それによって破産財団を減少させ、一般債権者を害するもの又はその限度に限られるものと解するのが相当であるから、本件においても、被控訴人は、本件根質権の目的とされた破産者の日本生命に対する解約返戻金等の差引支払請求権のうち二〇〇万円を超える部分に対する根質権の設定については、破産財団を減少させ、一般債権者を害するものとして、破産法七二条五号の規定に基づき、これを否認することができるが、その余の部分の根質権の設定を否認することはできないものというべきである。

そうすると、控訴人は、被控訴人に対して、本件根質権に基づいて日本生命から支払いを受けた解約返戻金等二六〇万一一五一円のうち二〇〇万円を超える部分の六〇万一一五一円及びこれに対する平成一二年一月一五日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務を負うことになるから、被控訴人の本訴請求は、その限度で理由があり、認容すべきであるが、その余の請求は、失当として棄却すべきである。

三  よって、当裁判所の右判断とは一部結論を異にする原判決は、これを変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上敬一 裁判官 澤田英雄 永谷典雄)

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